2007年 03月 07日
映画レビュー「長州ファイブ」 |
小ぶりだけど、駅からも近くて新しい、なかなかいい映画館でした。
席は満杯。レディースデーなのに7割ほどは男性客。それも結構、若者が多かったです。
うんうん、いい傾向だわ。「美しい国」とか「愛国心」とかなんてどーでもいいからさ。
若者にはこういう映画を観て元気になってもらいたい!「長州ファイブ」はそういう映画でした。
明治維新後の「日本の夜明け」に大きく係わった長州出身の5人。
井上聞多(井上馨・・・・・日本外交の祖)
伊藤俊輔(伊藤博文・・・日本初代総理大臣)
遠藤謹助(同じ ・・・・・・日本初代造幣局長)
野村弥吉(井上勝・・・・・鉄道の父)
山尾傭三(同じ ・・・・・・工学の父)
彼らは江戸時代末期に長州に生まれ、高杉晋作らとともに尊王攘夷派として、イギリス公使館焼き討ちや、薩摩藩や幕府へ敵対など、過激な行動に加担していきます。
しかし、長州藩の許しを得て密航した留学先のイギリスは、日本とは比べものにならないほどの高度な近代技術を身に付けていました。
建築、蒸気、鉄道、船、紙幣、福祉、etc・・・・・・。
ショックを受けた彼らは攘夷派から開国派に転じます。そして、日本は藩同士の争いをしている場合ではない。自分たちがここで学んで「生きる機械」となって、日本に持ち帰ろうと心に決めるのでした・・・
彼らがロンドン市民にどう捉えられていたかは、この映画ではそれほど多くは描かれていません。最初は「イエロー」などと蔑まれていたかもしれません。
しかし、もちろん「武士」としての気骨の精神も備わっていたのでしょう。
実際の彼らはとても勤勉で礼儀正しく穏和で、技術や語学を驚くほど早く吸収して、ロンドンやグラスゴーの関係者を驚かせたそうです。
そして現地では「長州ファイブ」と呼ばれて、ロンドン大学に顕彰碑が建てられるほど尊敬の眼差しを受けたそうです。
日本では帰国後の功績ばかりに光が当たっていますが、若き日本人が遠い異国の地で努力し、現地の人たちに称えられたという事実があまり日本では伝わっていないのは残念ですね。
さて、映画としての出来がどうかというと、正直「?」というところもあります。
でも、実際に存在した偉人たちを奇をてらわずに真っ直ぐに描いたという意味では好感を持てました。
残念ながら、日本に帰国後の彼らの功績については描かれていませんが、ここから後は有名だし教科書で知ってるでしょ?という演出上の視聴者への投げ掛けだったのかもしれません。
また、幕末ファンとしては「あそこも、あれも」とエピソードを求めてしまいがちですが、2時間という尺度の中では、仕方がなかったのかもしれません。
特に後半は、ほとんど松田龍平さん演じる山尾傭三の話になってしまっていました。ほかの4人の話も観たかったという気がしますが、NHK大河ドラマにでもしないかぎり無理でしょうネ(笑)
それから、テレビなどには必ず注釈が付く人物名や、歴史上有名な事件のナレーションは全く皆無です。自分では幕末ファンのつもりの私も、あれは桂小五郎?それとも久坂玄瑞? この人、吉田松陰?と考えるところがありました。長州弁が聞取りにくいというのもあります。
そういう意味では、残念ながら万人受けの映画ではないかもしれません。
あ、俳優さんはどの方も熱演されてました!
大河ドラマ「義経」で五足を演じた北村有起哉さんもステキでしたし、
何より後半の主人公ともいえる松田龍平くんの存在感!
とにかく立ち姿や殺陣の型の美しいこと。
この若さで、佇まいの美しい俳優さんはなかなかいないのでは?
ろうあ者であるエミリーと、口数の少ない山尾のプラトニックな関係も心を惹かれます。
大好きな司馬先生の「坂の上の雲」を読んでも思うことですが、江戸末期から明治にかけて海を渡って海外留学したニッポン人たちの苦労と努力は、もう並大抵なことではなかったと思います。
山尾傭三がグラスゴーで造船技術を学んで日本に持ち帰ってから、日露戦争で連合艦隊がロシアを破るまで、三十数年。150年前の状況で、この進化は本当にすごい。
欧米各国が驚いたのも当然でしょうね。この映画を観て改めて感じます。
帰宅してから、「新選組!」の再放送を観ましたが
山南が土方と意見を違うようになって悩むところ。久しぶりに会った坂本龍馬も日本の行く末に心を痛めて元気がない・・・という場面。明日は山南さん切腹の回。
芹沢鴨を暗殺して新選組が発足したのが1863年。
戊辰戦争が勃発して、近藤勇が斬首されたのが1868年。
「長州ファイブ」の5人がイギリスへ渡ったのが1863年。
最後まで残った山尾傭三と井上勝が日本に帰国したのが1868年。
うわ。ぴったりリンクしてるんですよね。新選組活動期間と長州ファイブのイギリス留学期間。
世界を観ちゃった人たちと、
ひたすら狭い国の中しか見えなかった人たち。
どちらが良いとか悪いではなく、そういう時代に信念を持って頑張った人たちに・・・合掌。
by nekodeko_51
| 2007-03-07 23:22
| 映画レビュー